研究について
西日本豪雨災害に関するビッグデータを用いた研究
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2018年に広島県を中心に発生した西日本豪雨災害が医療や介護の現場に与えた影響を、厚生労働省の許可のもと、医療レセプトや介護レセプトのデータを用いて調べています。この豪雨災害によって認知症治療薬の処方が増加したこと(論文)、高齢者の認知機能が低下したこと(論文)、漢方薬の一種である抑肝散の処方が増加したこと(論文)、睡眠剤・精神安定剤の処方が増加したこと(論文)、片頭痛治療薬の処方が増加したこと(論文)、過敏性腸症候群治療薬の処方が増加したこと(論文)、介護保険サービスの量と利用額が増加したこと(論文)、介護保険利用の中断(死亡や入院)が増加したこと(論文)、高齢者介護施設への長期入所が増加したこと(論文)、高齢者の要介護度が増加したこと(論文)、小児の喘息治療薬の処方が増加したこと(論文)などを報告しました。
医師の偏在に関する研究
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医師の地理的偏在および診療科偏在に関する研究を行っています。わが国の過去25年間における医師分布の推移、および日米英の三カ国比較から以下の内容を明らかにしました。 詳細はこちら。
- 経済モデルから導かれる、医師数の増加が医師の地理的偏在を改善するという仮説(空間競合仮説)が実際には成り立っていないこと。つまり単なる医師増加政策では医師の偏在を今後も改善できない可能性が高いこと(論文)。
- わが国特有の医療制度(国民皆保険制度や自由開業制度)が医師の地理的分布と診療科分布に大きな影響を与えていること。例えば日本の医師分布は米国のそれに比べ、国民所得の分布に影響を受けにくい傾向がある一方で、英国に比べると開業医の地理的偏在が大きくなりやすい傾向があること。また日本では開業しにくい科ほど医師不足や医師偏在になりやすい傾向があること(論文 論文 論文)。
- へき地への医師誘導に関しては、米国よりも日本のほうが政策的効果をあげている可能性が高いこと(論文)。
- 近年の広島県のように医師供給が大幅に不足する地域では、そうでない県に比べて医師の地理的偏在が悪化すること(論文)。若手医師や病院勤務医師のほうが 他の医師に比べてへき地や遠隔地に移動する可能性が高いこと(論文)。
医師の偏在に伴う倫理学的諸問題の研究
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医師の地理的偏在およびそれに対する国の政策が孕む倫理的諸問題について、ロールズの正義論、功利主義、運平等主義、自由論、プロフェッショナリズム、日本国憲法や国民皆保険制度との整合性などの観点から分析した研究を公表しました(論文)。
地域医療教育の研究
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自治医科大学の全卒業生3000名の進路を34年間追跡したコホート研究を行い、以下の内容を明らかにしました。
- 自治医科大学卒業生の義務遵守率は97%であり、へき地勤務率は他大学卒業医師に比べて義務内で13倍、義務後で4倍であること。また出身県定着率は70%であること(論文 論文 論文)。
- へき地出身医師および総合性の高い診療科を選択した医師は、義務年限終了後もへき地に残る可能性が高いこと。つまりへき地出身医師や総合医を増やすことが医師偏在の是正に結びつく可能性があること(論文 論文)。
- キャリア早期にへき地を経験していることが、その後へき地を選ぶことに独立した影響を与えていること。つまりキャリア早期の医師にへき地経験を積ませるような政策が、へき地における当面の医師不足解消だけではなく、長期的な医師偏在是正に結びつく可能性があること(論文)。
これらの結果の一部は2010年に世界保健機構(WHO)が発表した「へき地・遠隔地での医療者確保のためのグローバル政策ガイドライン」においてエビデンスとして採用されております。また地域医療教育に関する世界のエビデンスをまとめ、政策提言も行っております(詳細はこちら)。
『ランセット』日本特集号研究チームへの参加
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国民皆保険達成50周年を記念して『ランセット』誌で発表された論文「Japanese universal health coverage: evolution, achievements, and challenges」の分析チームに当講座が参加し、皆保険制度が社会に与えた影響の分析を担当いたしました。『ランセット』誌が先進国について特集論文を掲載するのはこれが初めてです。また、地域枠に関するレターも掲載されました。
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透析患者の通院時間格差の研究
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広島県の全透析患者と全透析施設の地理的分布を地理情報システム(GIS)を使って分析し、施設へのアクセスにどの程度の格差があるかを調べています。以下の内容を明らかにしました。
- 非都市部の患者は都市部の患者に比べ、最寄りの透析施設までの通院に約2倍の時間がかかること(論文)。
- 非都市部の公的医療機関が閉鎖になった場合、同規模の都市部の医療機関が閉鎖になった場合と比べて、患者の通院時間格差が拡大し、長時間通院患者が大幅に増えること(論文)。
- 透析施設からの道路距離が遠い地域ほど、透析有病率が低くなること。つまり通院困難な地域から患者が流出している可能性があること。あるいはそのような地域で透析導入が遅れたり死亡率が上がっている可能性があること。(論文)
へき地の定義に関する研究
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へき地の定義が医療資源の配分評価や医療政策に及ぼしうる影響を調べています。以下の内容を明らかにしました。
-
へき地をどのように定義するかによって、へき地への医師配置システムの見かけ上の効果が決定されること。つまり医療資源の再分配システムの評価に関する過去の研究結果にはバイアスがかかっている可能性があること(論文)。
- 従来のように人口規模、人口密度、産業構造、大都市からの距離といった指標に基づいて定義された「へき地」は、必ずしも医療へのアクセスが低い地域とは限らないこと。これらの指標ではどのように定義しても正確に低アクセス地域を同定することができないこと。また、定義に用いる地理単位が広域になればなるほど、それによって定義されたへき地は高アクセス地域を多く含んでしまうこと(論文)。
地域枠出身医師の進路に関するコホート研究
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全国地域医療教育協議会のコホート研究本部として、文部科学省、厚生労働省、全国医学部長病院長会議と連携し、全国の大学の地域枠出身医師および都道府県奨学金受給医師の進路を追跡するコホート研究を行っています(通知文書)
2016年に研究プロトコルと中間結果を発表しました(論文)。
また、地域枠出身者の医師国家試験合格率は一般医学科生よりも有意に高いこと、義務順守率は卒後3年で90%を超えていることも発表しました(論文)。
2019年には、地域枠出身医師の非都市部勤務率が一般医師の非都市部勤務率に比べて有意に高いことを公表しました(論文)。
この結果は広島大学からプレスリリースされました(リリース文)。さらに、地域枠出身医師の都道府県外流出に関する論文も発表いたしました(論文)。
2021年は地域枠と自治医科大学のアウトカム(国家試験合格率、へき地勤務率、義務順守率、指定都道府県定着率など)を比較した論文を発表し、卒後5年目の時点で義務順守率はそれぞれ90%、97%であること、両者ともに同世代の一般医師に比べてかなりへき地に偏った分布をしていることなどを示しました(論文)。
専門医療の地理的分布や集約化に関する研究
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専門医療の地理的分布や集約化の現状に関する研究を行っています。以下の内容を明らかにしました。
1.我が国において産科医や分娩実施病院の集約化が急速に進んでいること(論文)
2.我が国のCT、MRI、PETの台数は一貫して増加しており、それにともないこれら機器の地理的偏在も改善していること。つまり市場原理に基づく空間競合が起こっている可能性があること(論文)
3.しかしながら放射線科医には数の増加にともなう地理的偏在の改善が見られず、市場原理による空間競合が起こっていないこと。つまりCTやMRIといった物的資源と、放射線科医のような人的資源には、数量‐分布関係に違いがあること。また近年、放射線科医、画像診断機器ともに増加することによって、両者の分布格差が広がりつつあること(論文)
地域包括ケアの研究
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地域包括ケアの概念を日本で初めて提唱し実践した広島県みつぎ総合病院の事例研究を行い、この概念が中山間地の小さな町で生まれ、40年の歳月をかけ国の政策を転換させたプロセスを明らかにしました(論文)。
へき地医師の高齢化に関する研究
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へき地では住民だけではなく医師も高齢化していることを明らかにしました。特にへき地の病院に勤務する医師の高齢化が急速に進んでおり、へき地病院における今後の労働力低下が懸念されます(論文)。
患者複雑性に関する研究
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患者が生物心理社会的にどのくらい複雑な問題をもっているかをスクリーニングするツールであるPatient Centred Assessment Method (PCAM) の信頼性・妥当性を検証し、複雑性が入院日数と関連することを明らかにしました (論文)。また、複雑な問題が多いと医師と看護師の負担は増していくが、医師と看護師では負担に思う問題の性質が異なることをPCAMの使用により明らかにしました (論文)。
家庭医療専門医の分布に関する研究
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家庭医療専門医の就業地と他の専門医の就業地を比較し、家庭医療専門医が非都市部に強くシフトした分布をとっていることを明らかにし、家庭医療や総合診療の専門医を増やすことが医師偏在是正につながる可能性を示しました(論文)。さらに家庭医療専門医の地理的分布を日米で比較し、家庭医による医師偏在是正効果は米国よりも日本のほうが高いことを示しました(論文)。
研究業績